変体かなの楽しみ

小田 初次,大末建設

この度の東日本大震災の被害を受けた方々に、心よりお見舞い申し上げます。

大末建設の小田と申します。 
今回、コラムを書かせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします。

過去のコラムを拝見すると皆さん趣味のお話をされているようなので、私もちょっと特殊ですが、ここ10年ほどはまっている、変体かなの話をさせていただきます。

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さて、右の絵の暖簾はよく蕎麦屋さんで見掛けるものですが、なんと読みますでしょうか。ご存知の方も多いと思いますが、これは「生そば」とよみます。2字目と3字目が変体かなで書かれているので、読めない方もいると思います。書道をやられている方には常識なのでしょうが、私も読めませんでした。2字目は「楚」という漢字のくずし字で「そ」、3字目は「者」という字のくずし字で「は」に濁点をつけて「ば」と読みます。通常私たちが使っているひらがなの「そ」は2字目がもっと崩され、簡略化したもので、「は」は「波」という漢字を崩したものです。

今は、ひらがなはひとつの音に対してひとつの字を決めて使われていますが、江戸から明治初期までは、この「は」の字のようにひとつの読みに対して複数の文字が当てられて使われていました。これを「変体かな」と呼びます。ひとつの文字に対して大体2字から3字が割り当てられていましたから、いろは48文字なので、150字位が使われていたようです。

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何でこんな面倒なものに興味を持ったかというと、江戸時代の浮世絵や黄表紙に書いてある文字が読めなくて悔しい思いをしたのが、きっかけでした。黄表紙などは、今の漫画と同じで、分かりやすいように本の中央には大きく絵があり、後ろに説明の文字が書いてあります。しかも、ほとんどひらがなで難しい漢字には振り仮名が付いていて、内容もそれほど難しくない。時代もそれほど古くなく、祖父の時代には普通にみんなが使っていたので、読めないはずがないと始めたのですが、今のひらがなが続け字で書かれているつもりで読んでいたので、全く意味が取れませんでした。

それで、変体かなというものが使われているということを教えてもらい、本で勉強して読み始めたところ、これがパズルや暗号を解読するようで面白い。木版の印刷物でも字は続け字で崩してあるので、ひとつの字に対して、候補の文字が数種類あり、簡単には決められません。漢字もあまり使われていないでほとんどひらがななので、単語の切れ目が判りにくいのですが、前後の意味を考えながら文字や単語の切れ目を仮定しながら数行読み進めていくと、ある瞬間に今まで曖昧だったところがぴったりと嵌って文章が明快になる。これが結構面白くて、続けています。今まで読めなかったものが読めること自体がうれしいものですが、店に飾ってある版画や浮世絵に描いてある文字が読めると、結構いい気持ちになります。
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また、黄表紙と呼ばれる江戸時代の読本にも、内容的に洒落のきいたものが多く、例えば千手観音が不景気で「手を貸す」商売を始めたものや、心のなかの悪玉が善玉の眠った隙に体を乗っ取ったため孝行息子が突然放蕩を始める話など、子供向けというより大人向けの話が多く、興味の尽きることがないのです。

最近では古文書を学ぶことがブームと言われています。講座や独習用の本もたくさん出ていますが、変体かなは、ひらがなが主なのでお手軽だと思います。興味をもたれる方がおりましたら、ぜひ一度試してみていただきたいと思います。

興味をもたれた方用に独習用の本の案内を載せてきます。
http://www.kashiwashobo.co.jp/new_web/pamph/pamph08.html

2011年5月