冬の動物園

佐護 行光,富士ピー・エス

monthly201002

 先日、寒空の下、上野動物園へ遊びに行く機会がありました。動物園自体、前回はいつ行ったか思い出すことができないほど久しぶりでした。その日は時々小雨が混じる空模様で動物たちの吐く息は白く、観覧には多少きびしかったのですが、基本的に動物たちの動きは活発で、ぐったりして微動だにしない真夏の動物園よりおススメです。

 ライオン、トラ、コンドルそしてシロクマ等、大型の動物を楽しんだあとクジャクの檻の前を通りました。クジャクをみるといつも思い出す話があります。それはこういったお話です。

 オーストリアのシェーンブルン動物園に早く孵りすぎて、冬の寒さで仲間は皆死に絶えた中、唯一生き残ったオスのシロクジャクがいました。彼は生まれてすぐに当時では巨大なゾウガメの部屋に入れられました。動物園じゅうで一番あたたかい部屋だったからです。それからというもの、この不幸な鳥は自分のことをゾウガメだと信じて疑わず、一生の間ただこの無様な爬虫類に向かってだけ求愛し、あれほど美しいメスのクジャクの魅力(オスクジャクにとっては)にはまったくの盲目となってしまったのです。

 ノーベル賞受賞の動物行動学者ローレンツはこう言います。「衝動の対象をある特定のものに固定するこの「刷り込み」という過程にはやりなおしがきかない」と。

 人間にもきっとあるだろうやりなおしのきかない「刷り込み」(程度の大小はあれ)に、何とか客観視して気づければと思いますが、なかなか難しいようですね。

2010年2月